最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)1800号 判決 1949年12月17日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人工藤愼吉の上告趣意第一点について。
記録を調べてみると被告人の原審公判廷の供述及び柴田慶二に対する司法警察官の第一回訊問調書中の同人の供述記載から判示のように被告人が右慶二に対し「大きな声を出すな」と申向けたという文字通りの記載は認められない。然し乍ら原判決引用の被告人の原審公判廷の供述及び柴田慶二に対する司法警察官の第一回訊問調書中の同人の供述記載を綜合すれば被告人が一審相被告人長谷川頼市と本件強盗を共謀し長谷川が判示のとおり所携の刺身庖丁を柴田慶二に突きつけて「あり金を皆出せ、一万や二万はあるだらう」と申向け、脅迫し被告人もその傍らで判示のジャックナイフを手にして立ち柴田方家人を脅迫し判示の金員を強取した事実を認定できるのである。
そうして本件強盗の脅迫手段としては長谷川頼市の判示脅迫行為と被告人が右のように柴田慶二の傍らに立ちジャックナイフを手に持っていた行為とで十分であって被告人が判示にいわゆる「大きな声を出すな」と申向けたという事実の有無のごときは、本件強盗罪の成否はもとより、被告人の犯情にも何ら影響を及ぼすものでないというべきである。
してみれば原判決引用の証拠上右の点において判示事実との間に些少の齟齬があるとしても、この齟齬は原判決に影響を及ぼすものとは認められないから、論旨は採用に値しない。
同第二点について。
被告人が柴田慶二の妻の差し出した現金九百円を受取ることを断念して同人方を立ち去った事情が所論の通りであるとしても、被告人において、その共謀者たる一審相被告人長谷川頼市が判示のごとく右金員を強取することを阻止せず放任した以上、所論のように、被告人のみを中止犯として論ずることはできないのであって、被告人としても右長谷川によって遂行せられた本件強盗既遂の罪責を免れることを得ないのである。してみればこれと同一の見解に立って、原審弁護人の中止犯の主張を排斥し被告人に対し本件強盗罪の責任を認めた原判決は相当であって所論の違法はない。
よって刑訴施行法第二條旧刑訴法第四四六條を適用して主文のとおり判決する。
右は全裁判官の一致した意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎)